みなさんこんにちは。
元旅行会社社員で現旅行ライターのリュウジです。
先日旅行会社大手のHISが違法残業の疑いで書類送検されたという報道が出ました(参照:HIS、違法残業の疑いで書類送検へ 東京労働局 :日本経済新聞)
今回はこの件について、元旅行会社社員の私がなぜ旅行会社ではこのようなことが起こるのかという原因を考えてみたいと思います。
旅行会社だけでなく、他の業界にも通じることだと思いますので、残業問題などに興味のある人は読んでいただければと思います。
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目次
残業が蔓延する旅行会社
今回HISが書類送検されたのは違法残業によるものです。
労基法では1日8時間、週40時間までと労働時間を定めていますが、これを超える場合は協定を結ぶ必要があります。
会社名は出しませんが、私自身繁忙期には1日14~15時間で週に90~100時間旅行会社で働いていました。
過労死ラインは余裕でクリアしていたのですが、それでも会社の中では普通の方だったと思います。
私が働いていた会社は業界の中でも有名なガッツリ働く会社で、その分業績は伸ばしているという会社でしたが、働いている身からすると正直心身の余裕はなかったです。
これは極端な例だと思いますが、旅行会社は全般的に残業は多い業種です。
それは旅行会社のビジネスモデルが背負う宿命でもあると思います。
極端に利益率が悪い旅行会社のビジネスモデル
旅行会社は自社で商品を持たず、航空会社やホテルの商品を組み合わせて販売する代理業です。
そのため利益率は他の業種と比べても極端に悪いです。
一度旅行会社の利益率はどれくらいなのか、想像をしてみてください。
私が体感した旅行会社の利益率は粗利で10%ほどです(もちろんこれは取り扱う方面によって異なり、ヨーロッパや南米はもっと高く、国内や韓国、グアムなどはもっと低いです)
つまり1人30,000円の北海道旅行を販売したとしても、旅行会社の手元に残るのは約3,000円、そしてこの金額は粗利なので、ここから広告費や人件費が支払われ、純利益として残るのは1%ほどでしょうか。
加えて旅行は個人の人を相手にするため、販売単価も安く、利益をたくさん出すためにはとにかく数をさばく必要があります。
例を出して計算をしてみましょう。
月に100万円の純利益を生み出すためには、1億円の売上が必要になります。
1組あたりの旅行単価を10万円とすると、1億の売上を達成するためには月に1,000組総客する必要があり、20日でそれを対応するとなると1日あたり50組のお客さんの成約が必要になります。
すごく簡単な計算なのですが、1人で1日50組対応するのは無理です。私のいた会社では10組予約をとれたら、かなりすごいと褒められるレベルだと言われていましたので。
じゃあ人数を増やして対応すればいいじゃないかと思うかもしれませんが、そこでも旅行という商品の特性がそれを不可能にします。
旅行はシーズンによってかなり売上が上下する商品ですので、繁忙期に合わせて人員を確保すると閑散期に人員を持て余してしまいます。
そのため私のいた会社では正社員は閑散期をクリアできる人数に絞り、繁忙期になると派遣やアルバイトで穴を埋めるという形で対応をしていました。
旅行商品は単純なように見えて複雑なので、はじめて対応する派遣社員の人やアルバイトの人はかなり苦労していたと思います。
売上をあげるためにしていた努力
ここまでの説明で旅行会社の利益率が悪いということは理解いただけたでしょうか。
しかし社員の立場からすると、利益率が悪いことは正直どうしようもないので、とにかく数をこなして売上をあげるという形をとります。
当然旅行会社間での競争も激しいので、そこでどんなことをして売上をあげていたのかを紹介していこうと思います。
例えば福岡にはヒルトン福岡シーホークというホテルがあります。
このホテルはヤフオクドームに隣接しているため、ジャニーズやAKB48のような人気グループがコンサートをする時はまず予約がとれません。(恐らくコンサート関係者もこのホテルを利用するのではないかと思います。)
しかし、ファンの人としてはヤフオクドームに近く、ひょっとしたらアイドルが宿泊しているかもしれないホテルに泊まりたいという思いがあるため、コンサートの日程が発表された瞬間にヒルトン福岡シーホークに宿泊したいという問い合わせが殺到します。
こんな時旅行会社はどうするのかというと、ヒルトン福岡シーホークのツアーは掲載したままで一度問い合わせをくださいとします。
そして問い合わせにきたお客さんに対して、他のホテルを代案して予約につなげるという対応をします。
不動産業界で言うおとり物件に近いものがありますね(もちろん全ての旅行会社がそうしているわけではないですよ)
ただここでもう一つ問題が発生します。
コンサートの時は近場のホテルというのはほとんど埋まってしまっているため、福岡中のホテルが埋まっており、代案できるホテルもないという状況になります。
旅行会社には提携しているホテルというものがありますが、私のいた会社ではコンサートの日程が発表された瞬間、提携ホテルは瞬殺でした。
ただ代案しないとお客さんを逃してしまうため、私はじゃらんに掲載されている福岡のホテルに対して順番に電話をして空室を探していました。
正直これはかなりの労力を使います。一方でお客さんからの問い合わせはやみませんので、営業時間中はお客さんの対応に忙殺されます。
営業時間終了後も業務は続く
そんな感じでお客さんの対応をしていると、営業時間はあっという間に過ぎてしまいます。
銀行は15時に窓口をしめた後の仕事が大変だという話を聞きますが、旅行会社もこれは同様です。
まず営業時間中に対応しきれなかったお客さんへの対応、今日とった予約の手配、お客さんに送る資料の作成、新しい旅行商品の造成、進捗確認のためのミーティングなど営業時間が終わってもやることは山ほど残されています。
私がいた旅行会社では19時が定時かつ営業終了時間だったのですが、繁忙期は終電でも仕事が終わっていないという状況もよくありました。
そのため会社に泊まったり、朝早く来て対応したりしていたので、残業時間はどんどん重なっていったということになります。
私がいた会社はかなり極端な例ではあると思いますが、HISでもこれに似たようなことが起こっていたのではないかと思います。
旅行会社が残業時間を少なくするためには
これまでがHISの違法残業の原因について考えてきましたが、それではこれを解決する手段はないのでしょうか。
ここからは私個人の考えなのですが、旅行代理店というビジネスモデルが今後は淘汰されていくのは間違いないと思います。
これだけインターネットが発達すると、旅行会社に聞かなくても自分で旅行の手配ができますし、実際若い人が旅行会社を利用する機会は少なくなっています。
一部のリピーターを抱えた優秀な人を除いては生き残れないので、私の考えとしてはその旅行の知識を活かして別のビジネスをするしかないと思います。
そういった意味ではRETRIP[リトリップ] なんかはすごいと思います(もちろん色々な問題もあるので、それは駆逐しなければなりませんが)
ただRETRIPのライターさんのレベルは高いとは言えないので、そこを狙って質の高い旅行の情報を発信していけばまだまだチャンスはあるのではないでしょうか
実際SPOT(スポット) さんとかは質の高い記事を発信することで、多くのユーザーの共感を得ていますし、やり方はまだまだ色々あると思うので、旅行会社には新しい世界にチャレンジしてほしいなというのが、元旅行会社社員としての私の素直な想いです。
※2月2日追記 HIS担当者が違法残業についてコメント
1月31日にHISが違法残業で書類送検されたことが発表されましたが、その後新たな報道がいくつか出ていますので、紹介させていただきます。
本誌の取材に応えたHIS広報担当によれば、労働基準法に違反していたのは新宿本社のスタッフ1名と、法人団体事業部のスタッフ1名。それぞれ2015年4月から16年3月までの間に、新宿本社のスタッフは最大で月に110時間、法人団体事業部のスタッフは最大で月に135時間の残業をしていたという。
また別の媒体では
従業員に違法な長時間労働をさせた疑いで、東京労働局が労働基準法違反容疑で強制捜査に入った大手旅行会社「エイチ・アイ・エス」(東京都新宿区)では、2014年以降、違法な長時間労働があったとして5回の是正勧告を受けていたことが1日、同社への取材でわかった。
という記事も出てきています。
これらの記事を見る限り、HISに対して何度か勧告があったにも関わらず改善がされなかったということでしょうか。
ちなみに月に最大135時間の残業となると、1日平均で6~7時間くらいの残業をしていた計算になります。
私の旅行会社時代と同じくらい残業していたということですが、やはりこれはしんどいですよね。
トラベルビジョンさんの記事によると、2016年4月以降については改善が図られているということですが、今回書類送検されたということは実際のところはどうだったのでしょうか。
今後の報道も待ちたいと思います。
ここまでHISの違法残業で書類送検された件について考えてきました。
一つ間違いない事は旅行というジャンルは市場規模が大きく、まだまだチャンスは残されているということです。
しかし変化の激しい現代で一つのビジネスモデルに固執したりすると、残業が重なり上手くいかないという事が起きてしまいます。
HISもハウステンボスを買収したり、色々なビジネスを展開していますが、まだまだ不十分な点があったのでしょう。
HISは力のある会社ですので、今回の件があって会社としても色々と変革が進んでいくでしょう。個人的には今後のHISの動きには注目したいと思います。